「会社辞めてカフェ開く」ってカッコいい?→現実は甘くなかった話

「定年後は、ゆったり自分の店でもやってみたいな」——そんな言葉を聞いたことはありませんか?
今回紹介するのは、長年の夢だったカフェを60歳で開業した一人の男性の物語です。一見、理想的な“第二の人生”のように見えますが、その舞台裏には思いもよらない現実が待っていました。
「カフェオーナーになりたい」と考えている人にも、将来の働き方に迷う若い人にも、きっと何かのヒントになるはずです。

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夢だった“カフェオーナー”に、60歳で挑戦

60歳で会社を辞めた藤原進さん(62歳)は、長年の夢だった「自分のカフェを開く」というセカンドライフに踏み出しました。食品会社で働いていた藤原さんは、月収65万円、退職金はおよそ2,000万円。会社の再雇用制度は使わず、その資金を元手にカフェ開業を決めました。きっかけは、会社員時代に通っていたカフェの居心地のよさ。「いつか自分も、誰かがほっとできるような空間を作りたい」と思っていたのです。開業場所に選んだのは、学生時代によく過ごした街の近く。静かな住宅街で、駅からは少し距離がありましたが、「落ち着いた隠れ家的な店にしたい」というこだわりがありました。内装も丁寧に仕上げ、メニューは奥さんと二人三脚で開発。「新しい人生が始まる」と、藤原さんは胸を躍らせていました。

最初は順調…でも少しずつ見え始めた“ほころび”

開店初日は、友人や元同僚が多く来店し、大きなにぎわいを見せました。タウン誌にも紹介され、オープン直後は客足も好調。「落ち着いた雰囲気で、居心地がいい」といった声も多く寄せられ、藤原さんは「夢が現実になった」と実感しました。しかし、数週間が過ぎると、少しずつお客さんが減り始めます。最寄り駅から徒歩15分という立地は、やはり不便だったのです。近くに大きな商業施設もなく、「たまたま通りかかる」ような場所ではありませんでした。「いい店を作れば立地は関係ない」と信じていた藤原さんにとって、これは予想外の展開。SNSでの宣伝にも力を入れましたが、集客にはつながらず。店の良さを知ってもらうことの難しさを、日々感じるようになっていきました。

お金は減るばかり、気持ちも焦って…

藤原さんは、売上が思うように上がらない中でも、お店をなんとか続けようと必死でした。しかし現実は厳しく、仕入れ代や光熱費、家賃などの固定費がじわじわと効いてきます。もともとひとりで始めた店でしたが、忙しさからパートを雇い、人件費もかかるようになりました。これまで会社員として働いていたときは、経費や売上はすべて会社が管理していました。でも、自分で事業を回すとなると話は別。資金が減っていくスピードに焦りを感じる日々が続きます。市場調査も甘く、事業計画もざっくりとしたものだったと、藤原さんは振り返ります。「思いだけでは経営はできない」。そう痛感しながらも、テイクアウトやメニューの見直しなど、できることはすべてやりました。しかし大きな変化はなく、ついに開店から8ヵ月で閉店を決意することになったのです。

夢を追ったあとに、伝えたいこと

閉店後、藤原さんはハローワークに通い、今は非正規の仕事をしています。「カフェは失敗だったけど、夢を追ったことに後悔はない」と話します。ただ、これから同じように起業を考える人たちには、「冷静に準備してから挑戦してほしい」と強く伝えたいそうです。近年は、定年後も働くシニア世代が増えており、起業という選択肢を選ぶ人も少なくありません。けれども、国の調査によれば、60歳以上で起業した人の約3割が「赤字経営」と答えています。夢や理想だけでは続けていけない現実が、確かに存在します。「夢を見ることは大事。でも、続けるためには“現実を見る力”が必要なんです」。藤原さんの言葉には、実際に挑戦してきた人にしか出せない重みがあります。これから何かに挑戦しようとしている人にとって、その経験はきっと大きなヒントになるはずです。

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