テレビで動画を見たり、カメラで思い出を残したり。スマホやパソコンで、遠くの人と話すこともできます。
そんな便利な道具が、ホラー映画では物語の大事な役目を持つことがあります。
「どうして、いつも使う道具が怖さにつながるの?」
今回は、1990年代から現代につながるホラー映画を、映像を見る道具・撮る道具に注目して紹介します。映画を見ていなくても大丈夫。怖い場面の細かな説明や、結末のネタバレを避けて、そのひみつを探してみましょう。
いつもの道具が登場すると、なぜ気になるの?
自分の暮らしと重ねて想像できる
遠いお城を舞台にした物語と、自分の家に似た部屋を舞台にした物語。どちらが身近に感じられるでしょうか。
テレビのある居間や、机の上のパソコンなら、知っている景色と重ねやすいかもしれません。
ホラー映画は、そうした「いつもの場所」に小さな変化を加えることがあります。見慣れた景色だからこそ、「あれ、何か違う」と気づけるのです。
これは怖さの読み解き方の一つです。もちろん、何を怖いと感じるかは人によって違います。
道具を使う行動が、物語を動かす
「映像を見る」「カメラを向ける」「メッセージを開く」。どれも特別な冒険をしなくてもできる行動です。
映画では、その行動がなぞを知るきっかけになったり、新しい出来事につながったりします。
道具は、画面に置かれた飾りだけではありません。「登場人物が何をしたから、物語が進んだのか」を考える手がかりにもなるのです。
1998年『リング』|見ることが、なぞへの入口になる
ビデオテープって、どんなもの?
ビデオテープは、映像や音を記録するための道具です。『リング』に登場するようなVHSは、箱の中に細長いテープが入っていて、再生機を使ってテレビに映します。
インターネット上の動画と違い、テープという「手で持てる物」があります。誰かに貸したり、別の場所へ運んだりできるのも特徴です。
『リング』(1998年)では、不思議なビデオテープを見ることが、呪いにかかわる出来事の入口になります。これは映画の中の設定です。
知りたい気持ちと、見たくない気持ち
この作品を考えるときは、「何が映っているのか」だけでなく、「なぜ登場人物は見ようとしたのか」にも注目してみましょう。
なぞを解きたい。誰かを助けたい。本当のことを確かめたい。行動の理由を探すと、怖さの奥にある気持ちも考えられます。
「見ればわかる」と思っていたのに、見たことで疑問が増える。そんな流れも、映像を使った物語のおもしろさです。
テレビを「物語を楽しむ道具」から「なぞが届く入口」へ変えている、と読むこともできます。
1999年『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』|誰かの撮影記録みたい!
「見つかった映像」という見せ方
『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999年)は、伝説を調べるために森へ入った学生たちの、撮影記録を見るような形で進む映画です。
このように、物語の登場人物が撮った映像などを、あとで見つかった記録のように見せる形式を「ファウンド・フッテージ」と呼びます。
この映画より前にも同じような見せ方はありましたが、本作は、その形式を広く知らしめた作品の一つです。
「見つかった記録」というのは物語の仕組みで、この作品が実際の遭難記録だという意味ではありません。
全部見えないから、いっしょに考えてしまう
カメラを持つ人が走れば、画面も揺れます。後ろを向かなければ、背後の様子は見えません。
この映画では、正体をはっきり見せず、音や登場人物の反応から、何が起きているのかを想像させます。
たとえば、自分が旅行中に撮った動画を思い出してください。景色を撮るつもりが、地面が映ったり、友達の声だけが入ったりすることもありますよね。
そうした映像に似た見せ方は、「その場所で誰かが撮ったのかな」という印象につながる、と考えられます。
ただし、画面が揺れることだけが理由ではありません。話し方や音、見せる順番など、いくつもの工夫が重なっています。
ネットやスマホの時代|つながっていても、全部はわからない
通話画面そのものが、物語の舞台に
時代が進むと、ネット通話などの画面を使って物語を見せる作品も登場します。
たとえば『Host』(2020年)では、友人たちのZoom通話を通して、不思議な出来事が描かれます。監督のインタビューからも、脚本や仕掛けを工夫して作られた映画だとわかります。
通話相手の顔は見えても、その部屋全体は見えません。同じ画面に集まっていても、実際には別々の場所にいます。
「相手のそばで何が起きているのか、確かめられない」。そんな通話の特徴が、物語の不安につながると考えられます。
スマホならではの見せ方を想像しよう
ここからは、特定の作品ではなく、架空の場面で考えてみましょう。
友達から「写真を見て」とメッセージが届きました。でも写真がなかなか表示されません。やっと開いたと思ったら、今度は友達からの返事が止まります。
ここで気になるのは、怪物の姿ではなく、「何が届いたの?」「なぜ返事がないの?」という疑問です。
画面を指で動かすことや、通知を待つ時間まで、物語の見せ方に使えるのですね。
同じ映像でも、テープを手渡すのか、ネットで送るのかで、登場人物の行動や広がり方を変えられます。どちらが怖いかを決めるより、道具の違いが物語をどう変えるかを比べてみましょう。
映画なのに「本当みたい」と感じる3つのヒント
ここまでの話をもとに、考察するときの問いを3つにまとめます。
- 誰が撮っている?登場人物のカメラなのか、通話用のカメラなのか。撮る人の位置から、見える範囲を考えます。
- 何が見えない?画面の外や、聞こえなかった声など、わからない部分を探します。
- どんな日常に似ている?家族の動画や友達との通話など、自分の知っている体験との共通点を見つけます。
たとえば「部屋の外で音がした」は、映画の中で確認できることです。「誰かが隠れている」は、その音から考えた予想です。
見えない部分を想像するのは楽しいことですが、想像と、映像で確かめられたことは分けておきましょう。「まだわからない」という答えも、大切な考察です。
また、見る人と登場人物が、同じ情報を知っているとは限りません。架空の通話場面で、見る人だけが背景の変化に気づき、話している本人は気づいていなかったら、どんな気持ちになるでしょう。
「早く後ろを見て」と思うかもしれませんね。誰に、いつ、何を知らせるかも、映画の工夫です。同じ道具を使っていても、情報の見せ方によって印象は変わります。
怖がるだけでなく、作り方を知る楽しみも
テレビやカメラが登場するホラーは、1990年代に初めて生まれたわけではありません。今回は、その後の広がりを知るための入口として、3作品を紹介しました。
ビデオを「見る」物語、カメラで「撮る」物語、ネットで「つながる」物語。道具の使い方を比べると、怖さを作る工夫が見えてきます。
紹介した映画を、すぐに見る必要はありません。見たくなったら年齢区分を確かめ、保護者と相談しましょう。苦手なときは途中でやめても大丈夫。制作の話を読むだけでも楽しめます。
次に映画のカメラやスマホが気になったら、「この道具がなかったら、物語はどう変わるかな?」と考えてみてください。いつもの道具が、映画を読み解く手がかりになるかもしれません。
参考情報
作品情報・演出の確認に使用した資料です。本文の問いかけや架空の場面は、考察のための例として作成しています。リンク先には、大人向けの作品紹介や画像が含まれます。
- 英国映画協会(BFI):『リング』とビデオテープを使った怖さ
- BFI:ファウンド・フッテージ映画の歴史と作品例
- BFI Player:『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』作品紹介
- Sight and Sound:『Host』のロブ・サヴェージ監督インタビュー
資料確認日:2026年10月29日